慢性の痛みでお悩みの方の中には、病院の薬や注射、リハビリや整骨院の保険治療では治らず、整体やカイロプラクティック、鍼灸やマッサージ、サプリメントや占い?などいろいろ試された方もいると思います。
それでもなかなか痛みが変わらない、効果がないというのであれば、そもそも治療法が「あなたの痛み」に適していないのではないでしょうか?
軟骨や骨のカタチ、体の歪みや姿勢、自慢話だけではなく、痛みの説明はしてもらえましたか?
自分の痛みを知り、痛みを正しく理解することが健康を回復する第一歩です。
痛みの迷路に迷いこみたくない人も、すでに迷いこんでいる人も、この記事を読んで自分の痛みがどういう痛みなのか、どういう状態なのかもう一度確認してください。
あなたの痛みに適した治療を選択するときの道標になれば幸いです。
痛みを知ることからはじめよう!
国際疼痛学会(IASP)というところでは痛みをこのように定義づけています。
痛みとは組織の実質的または潜在的な損傷に伴う、あるいは、そのような損傷を表す言葉で表現される不快な感覚あるいは情動体験
(国際疼痛学会,1979年)
何やら難しい表現ですが、簡単にいうと、痛みとは実際に体に損傷があるときや損傷が起きそうなときに伴うものということです。
私たちは実際にケガや病気でなくても痛みを感じます。
痛みを感じて病院で検査をしても「何の問題もない。」と言われたりします。(このような痛みを非器質的疼痛といいます。)
つまり、身体的な損傷があってもなくても痛みは感じるということです。
そして、痛みは主観的、個人的なものであり、本人にしかわからない不快な感覚であり不快な情動体験であるということです。
情動というのは、身体的、生理的に変化をもたらす激しい感情で、表情や行動、自律神経系や内分泌系に変化をもたらします。
眉間にシワが寄るとか、眠れない、お腹の調子が悪い、などは情動反応によるものです。
痛みも自律神経系や内分泌系が関連しています。
つまり、痛みと情動(感情)も密接につながっているということになります。
重要なことは痛みは身体的、感覚的なものだけではなく情動も関連しているということ。そしてその主観的、個人的体験である。ということです。
じょうどう【情動】
〘心〙 感情のうち、急速にひき起こされ、その過程が一時的で急激なもの。怒り・恐れ・喜び・悲しみといった意識状態と同時に、顔色が変わる、呼吸や脈拍が変化する、などの生理的な変化が伴う。情緒。出典 三省堂 大辞林 第三版
痛みの個性。
痛みは本人にしかわからない。
未だかつて痛みを見た人はいません。
どんな名医でもあなたの痛みを体験することも客観的に評価することもできないのです。
あなたの痛みはあなたにしかわかりません。
本当の痛みは本人にしかわからない主観的で個人的なものです。
あなたが「痛い」と言えば、それが痛みなのです。
原因があってもなくても痛みとは関係ない。
ケガ=痛みではありません。
生物学・医学的な原因の有無が痛みの有無ではありません。
例えば、ヘルニアや狭窄症があっても痛いとは限らないし、ヘルニアや狭窄症などの原因が見つからなくても痛いものは痛いのです。
そもそも、ヘルニアや狭窄症を腰痛や坐骨神経痛の原因だと決めつけたのは誰ですか?
果たしてそんな不確実なものが原因ですか?!ということです。
さすがに骨の変形=痛みだと本気で信じている医師や治療家はいないと思います。
一人一人痛みは違う。
私たちの痛みは病名や症状名で一括りにされがちです。
時に、無理やり病名や症状名を付けられます。
時に、イレギュラーなことはスルーされます。
時に、治らないのを患者さんのせいにする医師や治療家がいます。
治らないのを患者さんのせいにする医師や治療家
- 患者さんのせいにする医師や治療家は一人一人違う痛みをみんな同じ痛みだと勘違いしているから治らない理由がわからないし、わかろうとしません。
- 患者さんのせいにする医師や治療家はみんな同じ治療法で治そうとするから「おかしい?治らないはずはない!」などと平気で言って患者さんを責めて困らせます。
- 患者さんのせいにする医師や治療家は苦行のようなセルフケアや無理難題を押し付けます。
話がそれました…。
何が言いたいかというと「同じ病名や症状名でも一人一人の痛みはそれぞれ違いますよ。」ということです。
痛みの種類(痛みの原因による分類)
痛みとは多種多様であり、なかなか捉えどころのないものですが、痛みはその原因によって侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛の3つに分類することが一般的です。(この記事では中枢機能障害性疼痛も加えています。)
実際には、それぞれの痛みが複雑に混じり合い、それぞれの痛みの占める割合も常時変化しています。
どんな痛みも単色ではなく、色々な要素が混じり合っているグラデーション色なのです。
侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)
侵害受容性疼痛は、体の組織損傷によって起る痛みです。
打撲や骨折、切り傷などのケガや火傷(やけど)など、炎症や刺激による痛みです。
外部から加わる叩く、刺す、つねるなどの物理的な刺激、熱や化学物質による刺激、体内で産生される発痛物質の刺激により引き起こされる痛みです。
侵害受容噐という皮膚や内臓に多く分布する組織の損傷を感知するセンサーが体の異常を痛みとして伝えてくれます。
体を危険から守るための警告としての意味を持つ痛みです。
普通、痛みといえば通常はこの痛みです。
神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)
神経障害性疼痛とは神経繊維の損傷により起る痛みです。
神経繊維の損傷・変性などにより痛みの信号を脳に正常に伝えることができなくなります。
糖尿病や帯状疱疹後神経痛などによっても起こります。
組織の損傷がない場合でも焼けるような痛みやチクチクした痛み、軽く触れられただけで痛みを感じるなど普通ではない痛み。
心因性疼痛(非器質的疼痛)
心因性疼痛とは精神的なものだけでなく、環境や思考、感情や行動など、心理・社会的要因が複雑に関与する非器質的疼痛です。(非器質的疼痛とは明らかな身体的原因がなく、解剖学的に説明がつかない痛み。)
当たり前のことですが、X線や MRIの画像に写るものだけが痛みの原因ではありません。
全腰痛患者の95~99%(分類によっては85%)は非器質的疼痛です。
怪我の治療と痛みの治療は違うということです。
中枢機能障害性疼痛(非器質的疼痛)
ストレスにより脳内の神経ネットワークの機能が低下することで起こる痛み。
脳内の神経ネットワーク機能の低下とともに痛みを抑える機能も低下します。
そのため、小さな痛みでも強く感じてしまうのが中枢機能障害性疼痛です。
痛覚過敏、活力低下、睡眠障害、慢性疲労、食欲不振、胃腸障害などの自律神経症状と合併することがあります。
混合性疼痛(mixed pain condition)
侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の要素を併せた痛み。
以上が痛みの原因別痛みの分類です。
全ての痛みは、侵害受容性疼痛だけ、神経障害性疼痛だけ、心因性疼痛だけ、中枢機能障害性疼痛だけというような単純な痛みではなく、混合型の痛みです。
痛みは色々な要素が入り混じっている境界のないグラデーションなのです。
ここを理解していない医師は見当違いな薬を何年も出し続けます。
「老化だからしょうがない。」と治療を放棄します。
これは薬で治る痛みですか?
それは手術で治る痛みですか?
痛みをどう評価しますか?
勘違いしないでください。
怪我の治療と痛みの治療は違うんです。
体の組織、神経、脳、心がバラバラに痛みを感じているんじゃないんです。
痛みを感じているのは「人」なんです。
急性痛と慢性痛(痛みの期間による分類)
ケガや炎症による痛みが通常治るのに必要な時間を超えて長期化することを痛みの慢性化といいます。
腰痛の例では、発症後3カ月以上持続している腰痛のことを慢性腰痛といいます。(3カ月以内に再発した場合も含む)
- 急性腰痛ー発症後6週間未満の腰痛
- 亜急性腰痛ー発症後6週間〜12週間(3カ月)未満の腰痛
- 慢性腰痛ー発症後12週間(3カ月)以上持続している腰痛
通常、2週間程度で治るはずの腰痛が3ヶ月以上も痛みが持続するということは、何か痛みを長引かせる要因があるということになります。
痛みを長引かせる要因には神経が過敏になったり、心理・社会的なストレスや脳の神経ネットワークの低下など色々な要因が関わっています。
そして、痛みの持続期間が長引くほど痛みを構成する要因が増えて複雑になり、ケガや炎症が治っても痛みが治らないということになります。
急性痛と慢性痛とは単に痛みの持続期間の違いだけでなく、痛みの種類そのものが違うのです。
1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月という期間は一つの目安にはなりますが、実際には期間ではなく痛みの種類、痛みの質が重要なのです。
痛みのグラデーションは急性の痛みから慢性の痛みに移行するとともに変化していくのです。
慢性の痛みの構成要素
今までお伝えした痛みを大きく分けると、身体的損傷による痛み、身体的損傷の痛みから別の痛みに変化(慢性化)した痛み、身体的損傷以外による痛みの3つに分けることができます。
- ケガや炎症、または神経の傷害などの身体的損傷による痛み。
- 身体的損傷を治しても治らない痛み。(非器質的疼痛)
- 身体的損傷が特定できない痛み。(非器質的疼痛)
慢性疼痛とは、ケガや炎症などが治っても痛みが治らない場合や身体的原因がないにもかかわらず痛みが長期持続する非器質的疼痛といえます。
具体的には
- ヘルニア、狭窄症などの原因(とされているもの)を治しても治らない腰痛や坐骨神経痛。
- レントゲンやMRI、血液検査でも原因が特定できない痛み。
これらの非器質的疼痛には、心や環境の問題(心因性疼痛)、脳の機能的な問題(中枢機能障害性疼痛)が関連していると考えられます。
心因性だとか中枢機能障害だとかセンスのないネーミングなので拒絶反応を起こす人もいるかもしれませんが「痛みとは不快な感覚あるいは情動体験」という定義があるように、純粋に感覚だけの痛みというのはありません。
急性痛、慢性痛にかかわらず、痛みは必ず身体的側面と精神的側面を持ち合わせています。
逆に心因性疼痛でも、純粋に精神的側面だけの痛みというのは存在しません。
物理的刺激や熱刺激による電気信号、または、何らかの内的刺激を神経が脳へ伝へ、脳がそれらを認識し、心が快または不快と感じて「痛み」になるのです。
構成している割合は人それぞれですが、身体の感覚と脳と心が「痛み」を構成しているのです。
言い換えると痛みには感覚・認知(脳)・情動(心)という3つの側面があるといえます。
そしてそれらは、時間的、空間的背景によって常に変化しています。
これが、痛みが一人一人違う理由です。
単純に痛みを肉体の破損と捉えていると痛みの迷路に迷い込んでしまいます。
ストレスや感情が痛みを長引かせるというエビデンス(科学的根拠)も数多く発表され「痛みの常識」になりつつありますが、なかなか分かりづらいところでもあり誤解されやすいところでもあります。
理解しづらいかもしれませんが、少なくとも、老化現象や遺伝、骨や軟骨が原因と言われてケムに巻かれるよりは治療方針が明確になり具体的行動に移せるようになります。
ところで、老化現象や遺伝、骨や軟骨が痛みの原因って誰が考えたんでしょうか?
痛みと筋肉の緊張
脳、心、そしてもう一つ、病院では検査しないものに筋肉があります。
実は筋肉も慢性の痛みと密接に関連しています。
ただし、筋力の有無や筋肉の柔軟性の話ではありません。
痛みに関連するのは筋肉の緊張です。
筋肉の緊張とは筋肉に無意識に力が入っている状態です。
無意識に力が入っていて、力が抜けない状態です。
筋肉の緊張が続くと血行不良、細胞の酸欠、痛み物質の発生、そして痛みになります。
また、血流の減少している筋肉を収縮させると、侵害刺激を加えなくても、痛みが生じます。
筋肉を緊張させるのは運動神経の興奮です。
血流を減少させるのは交感神経の興奮です。
そして、運動神経・交感神経を興奮させるのは脳および心(情動)なのです。
痛みの基礎知識 まとめ
痛みには色々な側面があります。
部分的に見るか全体を見るか、単色で見るかグラデーションで見るか。
ミクロかマクロか。
肉体か心か。
治療法が無限にあるように、痛みのミカタ(見方)も無限にあります。
あなたの痛みは怪我や炎症によるものですか?
神経繊維の損傷によるものですか?
炎症性の痛みと神経繊維の損傷による痛みでは薬も違います。
同じ怪我による痛みでも急性痛と慢性痛では違う痛みです。
炎症がないのに何ヶ月も何年もロキソニン飲んじゃダメですよ。
「これをやらなきゃ治りません」
「相当悪いですね」
「〇〇しちゃダメです。」などなど…。
親切なふりをして不安を植え付けるような人や情報には近づかないでください。
感覚・認知(脳)・情動(心)全てに悪影響を与えます。
私は、痛みを端的に表現するときに「痛みは筋肉の緊張であり、筋肉の緊張はこころの緊張である」と言います。
筋肉、心、そして脳、これらが調和し、緊張が解けたときに痛みは存在することができません。
筋肉、心、そして脳の緊張を解くのは「希望と安心」です。
つまり、あなたが痛みを卒業して健康になるためのキーワードはただ一つ。
その治療に「希望と安心」は有るのか無いのか。
この一点です。
※結論が飛躍していますが、感情と自律神経系、免疫系、内分泌系(ホルモン)は密接に関係しているという話は別記事でお伝えする予定です。
痛みの基礎知識 おまけ
慢性の痛みを卒業するために必要なことは「希望と安心」ですが、それを阻むのが不安と恐怖です。
気をつけないと不安や恐怖、怒りや悲しみなどのこころの緊張が脳と筋肉を緊張させ痛みを慢性化させてしまいます。
特に気をつけたいのは医師やゴッドハンドなど権威者の言葉や仕草です。
良く聞く言葉や仕草をまとめてみました。
- 「治らない。」・・・そんなこと断定できる人はいません。「私には治せません。」の間違いです。
- 「一生付き合うしかない。」・・・付き合いたくないから来たんです。
- 「手術しかない。」・・・治らない可能性やリスクの説明は?
- 「歩けなくなる。」・・・預言者?
- 「もっと早く来ればよかったのに」・・・ずいぶん前に来たけど、良くなんなかったよ…
- 「手術ですぐに治りますよ。」・・・言い方が軽すぎて引く!
- 画像を見ながら、ため息。・・・何を察すればいいの?
- 画像を見て「こんなの見たことない!」・・・大発見?!
名医でなくとも最低限の思いやりが欲しいところです。
他にもWEBやTV、CMや雑誌では不安を煽る情報で溢れかえっています。
一般の人は痛みや病気に詳しくなればなるほど不安になり、不安→緊張→痛みという痛みの悪循環に陥ります。
取り越し苦労していませんか?
悪い情報だけ信じていませんか?
そこに「希望と安心」はありますか?
最後までお読みいただき有難うございます。