【File.21】「もう歩けなくなるかも…」
手術宣告を受けた60代主婦を救った、脳への「安全宣言」
終わらない夜と、迫る決断
「先生、私はもう、自分の足で歩けなくなるんでしょうか……」
M様(60代女性・主婦)が当院の扉を開けた時、その表情は疲労困憊そのものでした。 目の下には濃いクマがあり、何ヶ月もまともに眠れていないことは一目瞭然でした。
地獄が始まったのは5年前。 最初は右のお尻に感じる違和感だけでした。しかし、それは徐々に鋭い痛みへと変わり、やがて太ももの裏から足先まで、まるで高圧電流が走るような激痛とシビレに支配されるようになりました。
整形外科での診断は、「脊柱管狭窄症」と「腰椎椎間板ヘルニア」の併発。 背骨の中で神経が圧迫されている、という画像診断でした。
「痛み止めの注射を打ちましたが、効果は一時的。薬もどんどん強くなりましたが、痛みは増すばかりで……」
そして先日、主治医からついにこう告げられたそうです。 「これ以上は手術しかありません」
手術をしても治る保証はない。でも、しなければ車椅子生活になるかもしれない。 「家族に迷惑をかけたくない」 その一心で耐えてきましたが、恐怖と痛みで一睡もできない夜が続き、M.T様の心は限界を迎えていました。
なぜ、注射が効かないのか?
M様のMRI画像は、確かに狭窄やヘルニアの所見を示していました。 しかし、私はここで一つの疑問を抱きました。
もし、骨や軟骨が物理的に神経を圧迫しているのが痛みの「すべて」なら、なぜ強力な痛み止めの注射(ブロック注射)が効かないのでしょうか? 神経の伝達をブロックしているのに痛い。これは矛盾しています。
私はM様との対話の中で、ある言葉に注目しました。 「夜、布団に入って『明日も痛いんだろうな』と考えると、足がジンジン熱くなってくるんです」
ここに真犯人が潜んでいました。 M様の痛みの主原因は、骨の変形そのものではなく、長年の痛みと恐怖によって作り出された「脳の警報システムの誤作動」だったのです。
暴走する警報器を止める
「Mさん、あなたの神経は今、火事でもないのに鳴り響く火災報知器のようになっています」
5年という長い期間、「痛い」「怖い」「治らない」という強烈なストレスに晒され続けた結果、M様の脳は「過敏(ハイパー)」になっていました。 これを「中枢性感作(ちゅうすうせいかんさ)」と呼びます。
脳が「この体は危険地帯だ!」と誤認し、些細な刺激や「不安な気持ち」さえも「激痛」として変換してしまっている状態です。 だから、患部(腰)に注射をしても、司令塔(脳)が警報を鳴らしている限り、痛みは止まらなかったのです。
「手術で骨を削る前に、まずはこの暴走している警報器を止めましょう」
施術のターゲットは「脳」です。 私はM様の皮膚に、触れるか触れないかほどの優しいタッチで接触しました。 強い刺激は逆効果です。過敏になっている脳に「攻撃だ!」と勘違いさせてしまうからです。
「ここは安全ですよ。もう守らなくていいですよ」 手を通じてそう語りかけるように、全身の緊張を解いていきました。
5年越しの朝
「……あれ? 立てる。足が軽い」
初回施術の後、ベッドから起き上がったM様は、キョトンとしてご自身の足をさすっていました。 脳に「安全」が伝わり、筋肉のロックが解除された瞬間でした。
「先生から『脳の勘違い』と言われた時は、正直意味が分かりませんでした(笑)。でも、魔法みたいに痛みが引いていくのを感じて、初めて希望が持てたんです」
M.T様ご自身の「治したい」という強い気持ちも、脳のリセットを加速させました。 5回目の施術を迎える頃には、あれほど苦しめられた足先のシビレはほぼ消失。 今では手術の話は立ち消えになり、お気に入りのスニーカーで1時間の散歩を楽しむ毎日を送られています。
画像診断がすべてではありません。 「手術しかない」と言われても、あなたの脳と神経には、まだ回復の余地が残されています。
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本記事は事実に基づくフィクションです。筆者は医師ではありません。記事内容は医学的診断を代替するものではなく、「科学的エビデンス」に基づく情報提供を目的としています。具体的な診断や治療については、必ず医師の診察を受けてください。その上で、「病院では解決しなかった悩み」の選択肢としてお読みいただければ幸いです。
