【File.24】失われた「日常」と、ヨガマットの記憶

【File.24】

失われた「日常」と、ヨガマットの記憶

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当たり前ができない絶望

「情けないんです。自分の足の爪さえ、自分で切れないなんて……」

T様(50代女性)は、深くため息をつきました。 半年前から始まった股関節の違和感は、ある日突然、激痛へと変わりました。 あぐらをかくことも、靴下を履くこともできない。 大好きだったホットヨガも辞めざるを得なくなり、家に引きこもりがちに。

「マッサージに行くと、無理やり足を開かれて余計に痛くなるんです。この若さで体が壊れてしまったのかと思うと、怖くて……」

彼女が失ったのは、可動域だけではありません。「当たり前の生活ができる自信」を失っていたのです。

痛みという名の「ロック機能」

彼女の股関節は、物理的に固まっている(拘縮している)わけではありませんでした。 検査をしてみると、他動的(私が動かす)にはある程度動くのに、自分で動かそうとするとピタリと止まり、痛みが走るのです。

これは典型的な「脳の防衛反応(マッスル・ガーディング)」です。

マッサージでの「痛い体験」がトラウマになって、脳が「足を広げる=激痛」と記憶し、動く瞬間にブレーキ(筋肉の収縮)をかけている。

必要なのは柔軟体操ではなく、「安心感の上書き保存」である。

彼女の脳内では、「足を動かす」というプログラムに、「恐怖」というデータが張り付いている状態でした。

恐怖の解除キー

「Tさん、体は壊れていませんよ。脳が『それ以上いくと危ない!』ってブレーキをかけすぎているだけなんです」

私はそう伝え、徹底して「痛くない範囲」での施術を行いました。 無理に広げることは絶対にしません。 脳が「あ、ここまでなら大丈夫なんだ」と認識できるギリギリのラインで、優しく揺らし、神経の緊張を解いていきます。

これは、脅える小動物を手なずけるような作業です。 少しずつ、少しずつ、「動くこと」と「痛み」を切り離していく(再学習させる)のです。

再び、マットの上へ

施術を重ねるごとに、彼女の「恐怖のブレーキ」は外れていきました。 「あ、靴下が履けた!」 「今日は爪が切れました!」 小さな「できた!」の積み重ねが、彼女の脳を自信で満たしていきました。

そして現在。

「先生、見てください。このポーズができるようになったんです!」

彼女は再びヨガ教室に通い始めました。 痛みへの恐怖心が消えたことで、体は本来のしなやかさを取り戻したのです。

「当たり前の生活ができない」と嘆く必要はありません。 あなたの脳に正しい動きを思い出させれば、体は必ず応えてくれます。

【読者の皆様へ:本記事の取り扱いについて】

本記事は事実に基づくフィクションです。筆者は医師ではありません。記事内容は医学的診断を代替するものではなく、「科学的エビデンス」に基づく情報提供を目的としています。具体的な診断や治療については、必ず医師の診察を受けてください。その上で、「病院では解決しなかった悩み」の選択肢としてお読みいただければ幸いです。

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この記事を書いた人

早坂 秀一のアバター 早坂 秀一 痛み回復センター東京代表/日本慢性痛施術者協会理事/慢性痛施術者・整体師(臨床歴13年)


もう治らない」と諦めかけているその痛み、実は体だけでなく「脳や心の緊張」が原因かもしれません。 私は、単に筋肉をほぐすだけでなく、対話を通じて不安を取り除き、あなたが本来持つ「回復する力」を引き出すことを大切にしています。


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