【File.16】「安静」という名の劇薬
〜寝たきりが招いた悲劇〜
真面目な人ほど、深みにハマる
「先生、医者の言う通りにしたのに、どうして悪化したんでしょうか……」
歩くことが困難でタクシーで来院されたH様(30代男性)は、げっそりと痩せ細っていました。 きっかけは1ヶ月前のぎっくり腰(ヘルニア疑い)。 整形外科医に「軟骨が出ている。これ以上悪化させたくないなら、痛みが引くまで絶対安静にしなさい」と強く言われました。
真面目なH様はそれを忠実に守りました。 仕事を休み、トイレ以外はベッドの上。お風呂も控え、じっと痛みが過ぎ去るのを待ちました。 しかし、1ヶ月経っても痛みは消えず、それどころか、少し動くだけで腰が砕けるような激痛が走るようになり、自力で立てなくなってしまったのです。
「過用」ではなく「廃用」
私はH様の足を見て、言葉を失いました。 ふくらはぎの筋肉が落ち、細くなっていたのです。
「Hさん、これはヘルニアの痛みではありません。『廃用症候群(はいようしょうこうぐん)』です」
筋肉は使わないと、1日で1〜3%萎縮すると言われます。 1ヶ月の寝たきり生活で、H様の体を支えるインナーマッスルは衰えきっていました。 さらに深刻なのが「脳」です。 「動くと危ない」と刷り込まれた脳は、少しの動作でも「危険信号(痛み)」を出して動きを止めようとします。
医師の「安静にしなさい」という言葉が、H様の筋肉を奪い、脳に恐怖を植え付ける「呪い」になっていたのです。
安静は「毒」になる
「今日から『安静』は禁止です。痛くても、少しずつ動きましょう」
最新の腰痛ガイドラインでは、「安静は2日まで。それ以上は回復を遅らせる」というのが常識です。 私はH様の恐怖心を解きながら、寝返り、四つん這い、つかまり立ち……と、赤ちゃんが成長するような順序でリハビリを行いました。
「動いても……意外と大丈夫だ」
脳が「動作=安全」と再学習するたびに、H様の体に力が戻っていきました。
自分の足で歩く喜び
3週間後。H様はタクシーを使わず、自宅から自分の足で当院のドアを開けました。 「『動いて治す』なんて、目から鱗でした。もっと早く知りたかったです」
「無理しないで」「安静にして」という言葉は、時に劇薬になります。 もし数日休んでも治らないなら、それは休みすぎのサインかもしれません。 勇気を出して、最初の一歩を踏み出しましょう。
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本記事は事実に基づくフィクションです。筆者は医師ではありません。記事内容は医学的診断を代替するものではなく、「科学的エビデンス」に基づく情報提供を目的としています。具体的な診断や治療については、必ず医師の診察を受けてください。その上で、「病院では解決しなかった悩み」の選択肢としてお読みいただければ幸いです。
