【File.02】
白衣の天使の「止まった呼吸」
笑顔の裏側の「鎧(よろい)」
総合病院で働くベテラン看護師、M様(50代)が当院に来られた時、その服の下には「厚い鎧」が隠されていました。 腰をガチガチに固める医療用のハードコルセットです。
「先生、もう限界かもしれません……」
M様は、新人時代から30年以上、患者様の命と向き合ってきました。 しかし今、彼女を苦しめているのは、患者様の体位変換や移乗介助のたびに走る、鋭い腰の痛みでした。
「患者さんを持ち上げようとすると、腰が砕けそうになるんです。ロキソニンを飲んで、コルセットで締め上げて、なんとか笑顔を作っていますが……」
家に帰れば、痛みで動けずソファに倒れ込む毎日。 「これ以上、周りに迷惑はかけられない」。その責任感の強さが、彼女に「早期退職」という悲しい決断をさせようとしていました。
整形外科では「職業病ですね」「軟骨がすり減っています」と言われ、湿布を出されるだけ。 白衣の天使は、自分自身の痛みを救うことができず、一人で泣いていました。
なぜ、彼女の呼吸は止まっていたのか?
私はM様に、普段通りに体を動かしてもらいました。 すると、ある決定的な「癖」が見つかりました。
彼女は、動作の瞬間に「息を止めて」いたのです。
重い物を持つ時、人は無意識に息を止めてお腹に力を入れます(バルサルバ効果)。 しかし、M様の場合、ペンを拾うような些細な動作でも、呼吸を止め、歯を食いしばり、全身を岩のように固めていました。
これは「また痛くなるかもしれない」という恐怖心に対する、脳の過剰な防衛反応です。 呼吸が止まれば、筋肉への酸素供給も止まります。 M様の腰痛の正体は、軟骨のすり減りなどではなく、「慢性的な筋肉の酸欠(虚血)」でした。 彼女を守っているはずのコルセットが、実は呼吸を浅くし、酸欠を加速させる「拘束具」になっていたのです。
鎧を脱ぐ勇気
「Mさん、あなたの腰は壊れていません。ただ、息ができないと悲鳴を上げているだけです」
私はM様に、勇気を出してコルセットを外してもらいました。 そして、施術で凝り固まったお腹(横隔膜)を緩めながら、徹底的に「呼吸」を体に思い出させていきました。
「吸って〜、吐いて〜。はい、そこで動いてみましょう」
私が背中に手を添え、呼吸のリズムに合わせて体を誘導すると、M様はハッと目を見開きました。
「……あれ? 痛くない」
息を吐きながら動けば、筋肉は緩みます。 酸素が巡り始めた腰は、本来のしなやかさを取り戻していきました。 それは、彼女が30年間背負い続けてきた「責任感という名の緊張」が解けた瞬間でもありました。
再び、優しさの最前線へ
数回の施術を経て、M様は「呼吸」をマスターしました。 今はもう、コルセットも痛み止めも必要ありません。
「先生、昨日の夜勤、一度も腰を気にせず走れました!」
「辞めるしかないと思っていましたが、定年まで現役で頑張ります。 だって、この仕事が大好きですから」
そう語るM様の笑顔は、痛みに耐えていた頃とは別人のように輝いていました。
もし、あなたも「職業病だから仕方ない」と諦めているなら。 その痛みは、仕事のせいではなく、体の使い方の「小さなボタンの掛け違い」かもしれません。 大好きな仕事を続けるために、一度私に会いに来てください。
【読者の皆様へ:本記事の取り扱いについて】
本記事は事実に基づくフィクションです。筆者は医師ではありません。記事内容は医学的診断を代替するものではなく、「科学的エビデンス」に基づく情報提供を目的としています。具体的な診断や治療については、必ず医師の診察を受けてください。その上で、「病院では解決しなかった悩み」の選択肢としてお読みいただければ幸いです。
