【File.04】
80代の杖を外した「安心」という処方箋
小さくなっていく背中
「買い物に行くだけで、涙が出るほど痛いのよ…」
80代の女性、S様が初めて当院に来られた時、その背中は悲しみで小さく丸まっていました。 一人暮らしのS様にとって、「歩くこと」はただの移動手段ではありません。生活そのものです 。
しかし、数年前から始まった足のしびれは、徐々に彼女の自由を奪っていきました。 5分歩くと、足が鉛のように重くなり、痺れて動けなくなる(間欠性跛行)。 道端に座り込んで休む自分を、通りすがりの人が心配そうに見る。その視線が、S様には何より辛かったといいます 。
整形外科での診断は「脊柱管狭窄症」。 医師はレントゲン写真を見せながら、淡々と言いました。 「神経の通り道が潰れていますね。もう歳ですから、うまく付き合っていくしかありません。手術もできますが、高齢なのでリスクがあります」 。
出されるのは血流を良くする薬だけ。リハビリに通っても 一向に良くならない足を引きずりながら、S様の心にはある恐怖が芽生えていました。
「このまま歩けなくなって、誰にも気づかれずに寝たきりになってしまうんじゃないか」
杖を握らせていた「真犯人」
Sさんの歩き方を観察すると、ある特徴的な動作が見られました。 足を出そうとする瞬間に、無意識に全身に力が入り、呼吸が止まっているのです。
これは「すくみ(Freezing)」に近い現象でした。 Sさんの脳内で、「歩くこと」と「痛み・転倒」が強く結びついてしまい、「歩こうとすると脳がブレーキをかける」というシステムエラーを起こしていたのです 。
確かに画像上、脊柱管は狭くなっていました。 しかし、私はSさんにこう告げました。
「Sさん、骨が曲がっていても、痛みは取れますよ。 あなたが歩けないのは、骨のせいじゃなくて、『転んだらどうしよう』って脳が怖がって、全身をガチガチに固めているからなんです」
彼女を歩けなくしていた真犯人は、狭窄した骨ではなく、「恐怖による筋肉のロック」でした。
「脳」を安心させる「優しい手」
「怖くないですよ、体はちゃんと支えてくれますよ」
私はまず、Sさんの「恐怖心」を解くことから始めました。 施術は、赤ちゃんを撫でるようなソフトなタッチで行います 。 強いマッサージは逆効果です。脳が「攻撃された」と感じて、余計に体を固めてしまうからです 。
手を通じて脳に安心感を伝えるように、背中から骨盤、足先へと緊張を解いていきました。 すると不思議なことに、施術が終わる頃には、S様の表情から強張りが消え、頬に赤みが差していました。
「…あら? 足が勝手に前に出るわ」
初回施術後のその言葉が、回復の合図でした 。
杖のいらない日常へ
それから週に一度、S様は楽しそうに通ってくださいました。 4回目にはコンビニへ。10回目には、片道15分のスーパーまで。 「歩ける」という自信がつくたびに、脳のブレーキは外れていきました。
そして先日、S様は杖を持たずに来院され、最高の笑顔でこう教えてくれました。
「先生、昨日ね、お友達と駅前の喫茶店まで歩いてお茶をしてきたの。 『あなた、最近歩くのが早くなったわね』って驚かれちゃった!」
80代でも、脳と神経は学習し、体は変わります 。 「もう歳だから」という言葉で、ご自身の可能性を閉じ込めないでください。
もし、あなたのご家族や、あなた自身が「歩けなくなる恐怖」と戦っているなら。 どうか諦めずに、ご相談ください。当たり前だった「歩く喜び」を、もう一度一緒に取り戻しましょう。
【読者の皆様へ:本記事の取り扱いについて】
本記事は事実に基づくフィクションです。筆者は医師ではありません。記事内容は医学的診断を代替するものではなく、「科学的エビデンス」に基づく情報提供を目的としています。具体的な診断や治療については、必ず医師の診察を受けてください。その上で、「病院では解決しなかった悩み」の選択肢としてお読みいただければ幸いです。
