変形性股関節症と一口にいっても痛くなったきっかけや、時期、症状は人それぞれ違います。
ジョギングなどの運動中に急に股関節に激痛が走った人もいれば、10代の頃から股関節に違和感や痛みを感じていた人もいます。
一般的に40~50代女性に多いとされる変形性股関節症ですが、実際には10~30代の女性や、男性でも変形性股関節症の症状で悩んでいる人は少なくありません。
ここでは、変形性股関節症の症状と治療法をご紹介します。
本当の意味で「治る」とはどんなことかを考えるきっかけにしていただけたら幸いです。
1. 変形性股関節症の症状
変形性股関節症の症状には、股関節周辺の痛みの他に、股関節の動きが制限されるといった特徴があります。
また、診断上(画像所見上)では関節の隙間(軟骨の磨耗)や骨の状態を見て症状の進行を判断します。
1-1. 変形性股関節症の症状 股関節の痛み
変形性股関節症の痛みの症状は、運動後や普段より多く歩いた時などに股関節に軽い痛みや違和感、だるさなどを感じる程度のものから、寝ているだけで痛むものまで様々です。
はじめは1~2日程度で治っていた痛みも徐々に長引くようになり、歩き始めや立ち上がる時など日常的な動作で痛みがでてきます。
また、股関節の前面(鼠径部)だけではなくお尻(臀部)や太もも、腰や膝、すねや足の先まで痛みを感じる人もいます。
痛みの他にも、足がだるい、足がつる、足のむくみなどの症状を伴うことがあります。
そして、痛みをかばって歩いたり、痛い方の股関節に負担をかけないように生活していると反対側の股関節が痛みだすといったケースもよくあります。
痛いから動かせない、動かしたくないという状態が続くと、今度は関節が硬くなり股関節の動きが制限されて歩行などの日常生活に支障がでてきます。
股関節の動きが制限されて股関節が動かなくなると痛みは軽くなりますが、ストレッチなどで無理に可動域を広げようとすれば痛みがでます。
1-2. 変形性股関節症の症状 股関節の動き(可動域制限)
何日か絶対安静をすればリハビリが必要なように、股関節は「動かさないと動かなくなります」
はじめは股関節の痛みを避けるために無意識に避けていた動作ができなくなります。
例えば、脚が組めない、足の爪が切れない、靴下がはけないなど股関節の動きに制限がでるために足が上がらなくなります。
歩行に関しても、大股で歩きにくい、足を引きずって歩くといった症状がでてきます。
また、階段も手すりがないと昇り降りできなくなっていきます。
痛みと同じように股関節が動かない、股関節に力が入らないというのは歩くという動作でさえ不安や恐怖に感じてしまいます。
変形性股関節症の症状で一番の問題は、歩く、しゃがむなどの日常生活の基本動作に支障がでることです。
痛いから動かせない、動かせないから動かなくなるといった悪循環の繰り返しで症状が悪化するため、どこかでこのサイクルを壊す必要があります。
1-3. 変形性股関節症の画像上の症状
変形性股関節症の診断では痛みや股関節の可動域など症状を問診する他に、股関節の画像(X線)検査をおこないます。
(画像上の)骨の変形の進行度によって前期・初期・進行期・末期の4段階に分けられます。
1. 前期股関節症
臼蓋形成不全はあるが、関節のすき間には異常がなく軟骨のすり減りは見られない状態。
2. 初期股関節症
軟骨のすり減りが見られ、関節のすき間が狭くなる。また、骨の硬化(骨が硬くなる)が見られる状態。
3. 進行期股関節症
骨盤側の骨(臼蓋・きゅうがい)に骨のトゲ(骨棘・こつきょく)ができたり、骨の中に空洞(骨嚢胞・こつのうほう)ができる。
関節のすき間が明らかに狭く、軟骨がかなり磨耗した状態。
4. 末期股関節症
関節のすき間が完全に無くなった状態。骨棘や骨嚢胞も大きくなる。
ただし、画像上(骨の変形)の進行度と症状は必ずしも一致するものではなく、前期股関節症だから痛みは軽く、末期股関節症だから痛みが強いという訳ではありません。
実際に、股関節の痛みと、変形性股関節症のX線検査の関係を調査した研究によると、X線検査上の変形性股関節症と股関節の痛みは必ずしも一致しないという結論がでています。
X線検査の画像上では変形性股関節症でも実際に股関節に痛みを感じる人は少ないという結果になっています。
Osteoarthritis Initiativeの4366人を対象とした研究 X線検査上で変形性股関節症と診断された患者のうち実際に痛みがある人(股関節)の割合
- 鼠径部の痛みがある人(股関節):237関節中39関節(16.5%)
- 大腿前部の痛みがある人(股関節):157関節中24関節(15.3%)
- 鼠径部または大腿前部の痛みがある人(股関節):323関節中52関節(15.8%)
これは、X線検査の画像(骨の異常)だけを診て、変形性股関節症かそうでないかを診断した調査研究です。
画像上で変形性股関節症であっても実際に痛みがある人(股関節)は15~16%にすぎません。(他の946人を対象とした調査では最大でも36.7%)
診断上は、股関節に痛みがあり画像所見で骨の異常があれば変形性股関節症と診断されます。
しかし、画像所見と症状が一致する人の方が少ないということは、変形性股関節症の痛みの原因=骨の異常ではないということになります。
2. 変形性股関節症の治療法
変形性股関節症の治療は人工股関節全置換術や骨切り術(関節温存手術)などの手術療法と、手術を行わない保存療法があります。
2-1. 変形性股関節症の保存療法
変形性股関節症の保存療法には、股関節に負担をかけないという目的のもの、筋力を強化する目的のもの、痛みを緩和する目的のものがあります。
1. 股関節に負担をかけないための保存療法
- 生活指導
- 杖の使用
- 体重管理(ダイエット)
- 装具療法
2. 筋力を強化するための保存療法
- 運動療法
- 筋肉トレーニング
- 水泳・水中歩行
3. 痛みを緩和するための保存療法
- 温熱療法(ホットパック)
- 薬物療法(消炎鎮痛剤・湿布・軟膏)
治療法として、股関節に負担をかけないことと、筋力を強化することというのは矛盾してしています。
詳しくは
- 股関節に負担をかけないことで、筋肉の緊張(こわばり)を和らげる。
- 筋肉の緊張が和らいだら、股関節の動きをサポートする筋肉を強化する。
- 痛みが辛い時は、温熱療法や薬物療法で対処する
ということです。
順番を間違えていたり、同時に全てを行ってもうまくはいきません。
ただし、これらの保存療法は、あくまで、変形性股関節症の症状を遅らせるという前提のものですから、根本的な解決は望めません。
そもそも、股関節への負担や、筋力低下が原因で痛くなっているわけではありません。
2-2. 変形性股関節症の手術療法
手術療法を選択するのは、保存療法で症状が改善せず、歩行が困難であったり、痛みによる苦痛が日常生活に大きな支障をきたす場合です。
症状がひどく日常生活が困難な人にとっては手術療法は最後の選択肢ともいえます。
最近では人工関節の耐久年数も向上し人工股関節全置換術を勧められる人も増えています。
ただし、手術療法を選択する場合には手術によるリスク(危険)とベネフィット(得られる利益)のバランスを慎重に検討する必要があります。
ベネフィットはもちろん症状の改善ですが、どの程度改善するかは実際に術後の経過をみるまではわかりません。
手術前よりも手術後の方が症状が悪化する例も無いとは言えません。
感染や人工関節の緩み、脱臼などのリスクの他に、脚長差(きゃくちょうさ)や太ももや膝に痛みがでるというケースもあります。
また、手術費用、手術後の入院期間やリハビリなども手術を検討する上で重要なポイントになります。
変形性股関節症の手術を勧める医師と勧めない医師
少し視点を変えてみると、病院は手術をすれば多額の治療費が入るわけですから手術をした方が病院経営という視点からみれば、手術をした方がいいわけです。
しかし、なかには症状や年齢、性格?などを総合的に診て保存療法を勧め、患者さんが希望しても手術をしない医師もいます。
この医師は「症状だけ」を診るのではなく、きちんと患者さんと向き合って「人」をみて診断されているのだと思います。
「本当に手術が必要だと判断した人にだけ手術をする」というと当たり前に聞こえますが、「最終的には手術をするしかありません」という手術を前提にした医師も少なくありません。
「人」をみて診断している医師は絶対にこのようなことは言いません。
「今すぐ手術しなければ歩けなくなります」
「今回の手術が成功したら反対の股関節も手術しましょう」
たとえ手術が成功しても、反対側の股関節が痛くなったら、膝が痛くなったら…
あなたは全てを人工関節に換える覚悟はありますか?
3. 変形性股関節症 治療の目的 「治る」とは
治るとはなんでしょう?
これは、治療の目的の話です。
痛みがなくなる=治ったではありません。
痛みがなくなっても…
また痛くなったらどうしよう?
他のところが痛くなったらどうしよう?
毎日不安で眠れません。
痛くなると嫌なので運動を控えてます。
これって治ってますか?
痛みを克服してますかってことです。
目指しているのはなんですか。
痛みも確かにつらいです。
でも、本当につらいのは「歩けなくなったらどうしよう」「寝たきりになったらどうしよう」「変形性股関節症は手術をしないと治らない」といった不安や恐怖を常に抱えながら生活しなければいけないことではないでしょうか。
皮肉なことに、その不安や恐怖を大きくしているのが治療する側の人間です。
「手術をしなければ将来歩けなくなる」と言われた時の気持ち。
一個人の考えや何気ない言葉で未来が変わることだってあるんです。
治療の目的は、痛みをとることはもちろん、「安心」「心の平和」を提供することです。
「治る」とは、痛みに対する不安や恐怖から解放された状態のことです。
「どんな治療をするのか」ではなく「何のために治療をするのか」が重要です。
体の痛みをとるだけだったらどんな治療法でもいいわけですから。